December 29,2022 2022年に読んだ本


picrewの「올갱SD픽크루」で作った侯君集x李世民です 悪魔xうさちゃん
毎年サイトの日記に書いてる読書おさらい記事です


一月

『岩波講座世界歴史第6巻 中華世界の再編とユーラシア東部 4~8世紀』(荒川正晴編集委員、岩波書店 2022)
今年買って良かった本その1
荒川先生の展望がコンパクトにこの時代の動向と特色をまとめていておすすめです
〈太宗は関隴系・山東系・南朝系など出身氏族を問わない幅広い人材を受け容れた普遍的体制を指向していたことが指摘されている(山下将司「唐初における『貞観氏族志』の編纂と「八柱国家」の誕生」『史学雑誌』111巻2号 2002)〉(p.34)ようやくこれが隋唐代の概説書に書かれるようになって嬉しい
『中華中毒 中国的空間の解剖学』(村松伸、筑摩書房 2003)
〈礼の秩序を重んじた儒教的空間秩序と、自然と和し「気」の流れを重んじる道教的空間秩序が重層的に織りなす「中華文化」は、ひとびとの行動、作法、空間の創造、インテリアなどすべてに影響を及ぼす。「中華=世界の中心」という強靭な文化体系はやがて各地に伝播し変容し独自のスタイルを生み出すが……。〉(文庫版裏表紙より)
文庫版買って読み直しました。天安門ゴジラの章が有名だけど、中華思想とその影響下にある中国建築や宮城、宮廷などの政治空間のあり方について深く論じてあるめちゃおもしろ本
中国には「前朝後寝」といわれる朝(政治的空間)を北に、寝宮(私的空間)を南に配する様式があり、〈書斎も「寝」の空間に含まれたから、ここで性行為が実行された。〉らしいんですが書斎でエッチする李世勣李世民さんの“画”が見えてきました


二月

『中国の庭園 山水の錬金術』(木津雅代、東京堂出版 1994)
『増補改訂版 はじめての中国キリスト教史』(石川照子、桐藤薫、倉田明子、松谷曄介、渡辺祐子著、渡辺祐子監修、かんよう出版 2021)
東シリア教会(※いわゆるネストリウス派キリスト教。「ネストリウス派」という名称は彼らを異端と位置づける蔑称であり、現在は自称として用いられておらず、他称としても使用は避けるべきとのこと。『東方キリスト教諸教会』より)のシルクロード伝播と唐王朝への到来と衰退がまとまってます
・ローマを追放されたネストリウスの支持者には技術者も多く含まれており、彼らの技術がさまざまな工芸品を生み出しペルシア文化に貢献した。
・ソグド商人は交易の際に有利な宗教を信仰する傾向があり、上記の工芸品が交易において重宝され、ソグド人をキリスト教へ惹きつけた
・シリア語で「商人」は「福音を述べ伝える者」の隠語として使われていた。
・貞観九年(635)に東シリア教会から唐王朝に派遣された阿羅本を団長とする使節団は、宰相である房玄齢の出迎えを受けているため、ササン朝の公的な外交使節団であったと思われる。
・当時のササン朝は度重なる内乱やイスラームの台頭で滅亡の危機に瀕しており、当時の皇帝ヤズデギルド3世はこの使節団に唐朝への援助要請の任務を託した可能性が高い。
などなど…
「宰相である房玄齢の出迎えを受けているからササン朝の公的な外交使節団であったはず」とか根拠薄弱じゃないかと思うんですが、当サイトの創作ではこの説を採用したいと思います


三月

『砂漠の美術館 永遠なる敦煌:中国敦煌研究院創立50周年記念』(水野敬三郎、田口榮一、朝日新聞社文化企画局東京企画部編集、朝日新聞社 1996)
敦煌美術に関する本持ってなさすぎなので買いました
『大唐文明展 空海が見た文明の輝き』(陝西省展準備委員会編、出版社陝西省展準備委員会 1998)
これは李勣墓出土三梁進徳冠の画像と説明目当てで買いました。三梁進徳冠の外側は皮貼りで、その上にさらに花柄を透かし彫りした皮を貼ってるらしいです。作画めんどくさそう
『中国庭園』(青羽光夫、誠文堂新光社 1998)
写真と図版がいっぱいの最高本。手元に置いておきたいけど高い


四月

『中国姓氏考 そのルーツをさぐる』(王泉根著、林雅子訳、第一書房 1995)
『思考と行動の中国史』(竹内康浩、山川出版社 2022)
中国の歴史における「人間観」「社会観」「世界観」を意識しつつ、「皇帝という存在」「暴力的な上流階級」「日々の暮らし」「世界理解の様相」の4つテーマから中国人の「価値観の基礎」について叙述する本
竹内先生の本は初学者向けとして書かれていてもハッと死角をついてくるからすごいです。「皇帝という存在」の章がほんといい
「新・少林寺」DVD BOX
新少林寺-维基百科,自由的百科全书という、映画「少林寺」をリライトした50分20話のテレビドラマをDVD4本分に再編集したDVDBOX
史実もへったくれもないトンチキなドラマをギュッと編集したDVDで、いまだにこのドラマを冷静に振り返ろうとすると脳がぐにゃ…となるので客観視ができません。登場人物は小虎も李世民さんも王仁則も麗捐(ヒロイン)も好きなのに…
唐代にガスマスクやダイナマイトが出てくるのはネタとして流せたんですが、大型の壺に麗捐の体を収納して首だけ出してる状態(壺の口は肩幅より狭い)だけはどうやって麗捐を壺に入れたのかわからなくてずっと引っかかってます。人体の周りに壺を成形して焼くしかなくね?


五月

『西遊記』1、2(中野美代子訳、岩波書店 2005)
twitterで「『西遊記』の李世民が出ているところと唐が舞台のパートだけでも読みたい」と呟いたところ有識者フォロワーから「唐パートなら魏徴の出る第9回〜取経の旅に出る第12回、玄奘の旅が終わって唐に帰ってきて太宗に謁見するのは第100回」と教えてもらい、ひとまず1、2巻だけ買いました
訳の妙もあるんだろうけど西遊記の李世民さん可愛すぎて新鮮に驚けます。臣下に優しいどころか縁もゆかりもない龍王にも優しい
〈聞いて太宗、悲喜こもごもの思いにとらわれました。よろこばしいのは、魏徴こそは誇るに足る忠臣であり、朝廷にこのような豪傑がいるからには、国の安危を案ずるには及ばない、ということです。いっぽう悲しいのは、夢のなかで龍を助けると約束したのに、思いもかけず誅殺されてしまった、ということです。でも、やむなく元気を出し、(秦)叔宝に命じて龍の首を仕置き場にさらし、長安の民草への見せしめとすることにいたしました。いっぽう魏徴には恩賞を与えました。〉(1巻p.368)
かわいい。聖母。ありがとう中国四大奇書
『唐帝国の統治体制と「羈縻」』(西田祐子、山川出版社 2022)
今年読んで良かった本のベストこれです
〈出来事を要約すれば、太宗貞観十一(六三七)年、太宗は長孫無忌・房玄齢・杜如晦・李靖ほか総勢一四名の功臣たちを各地の州刺史に任命し、その職を世襲させようとした。しかし長孫無忌ら功臣たちは、太宗とともに過ごした厳しい日々を経て、やっと国内が治まったわけなのだから、いまさら太宗と離れたくないのだと願い、太宗の命令を拒絶したのである。それに対する太宗の反応からは、国内を分割してそれを功臣とその子孫たちに守らせることにより、自らの子孫も彼らに助けられ、国が長く繁栄できるという思惑があったのだと窺える。ここで現れている功臣たちの思考は興味深い。彼らは世襲可能な封土を与えられ安定を約束されるよりも、あくまでも太宗という個人の身辺で活躍する機会を与えられることのほうを望んでおり、それこそが栄誉であるという観念を共有しているのである。また、太宗も功臣たちからの訴えを受けて命令を取り下げていることから見ると、彼もこの考え方を共有しているといえよう。この事例からは、皇帝との個人的紐帯というものの唐朝における意義の強さが見て取れるだろう。(唐朝一代に通じて同様であるかは不明。)〉(p.208)
この目の付け所がすげ〜〜〜〜〜〜〜〜
近年の斎藤先生の研究(阿史那社爾や契苾何力は民衆統治から除外され、外様として日陰の扱いを受けていたのではないかという説)に対し、「太宗という個人の身辺で活躍する機会が栄誉であるという観念が共有されているならば、むしろ社爾や何力は皇帝の側近武官という名誉ある地位を獲得したリーダーとして求心力も高まっていたのではないか」と指摘されててめちゃくちゃおおっとなりました
功臣x李世民も蕃将x李世民も“ある”し社爾x李世民も何力x李世民も“ある”ぞ…


六月

『隋唐龍伝説』1〜3(谷恒生、世界文化社 1997)
たまたま安くて状態のいい古書を買ったんですが積んでます
李世民が李淵の実子ではなく達磨大師の子という設定らしいです 奇書じゃん
パラ見したらえっっぐい李靖→→→李世民描写あって思わず一旦本を閉じました


七月

『中國古代服飾擷英:歷史的衣櫥』(顧凡穎、同心出版社 2018)
図版が豊富なのと袞冕について詳しく書いてあったのが良かったです。玉佩の図解とかありがたすぎる
『和刻本正史唐書 影印本』全4巻(長澤規矩也編、汲古書院 1985)
ようやく買ったけど『新唐書』の方なのでサイトの列伝翻訳の役にはあんまり立ってません。悲C


八月

『書聖名品選集19淳化閣帖1』(桃山艸介訳、マール社 1989)
『書聖名品選集20淳化閣帖2』(桃山艸介訳、マール社 1989)
〈晩年の太宗は下痢の悪化によって体力を消耗していったことが知られている。太宗の尺牘(せきとく:書状の意味)中には体調不良のため面会を謝絶する旨のものが多い。〉(『書聖名品選集19淳化閣帖1』p.71)悲C
褚遂良が永徽元年〜三年(650〜652)に書かれたとされる《家姪帖》で「あごひげもびんの毛も残らず真っ白になった」としたためていて、五十歳中盤の白髪褚遂良…ウウ…ってなりました
でも今のデザインにする以前の褚遂良を白髪で描いてたけど黒髪にリデザインしてよかった…史実に合わせた加齢の表現ができる…
虞世南が《左脚帖》に「脚の痛みがひどく病身をおしても参内したいのですが、陛下がこちらを訪ねられるのであれば喜んでお答えしたいと思います」と書いてるの、ぜったい李世民の方から訪ねてくるのを確信してるからだと思います
『世界秩序の変容と東アジア』(川本芳昭、汲古書院 2022)
今年読んだ本でずば抜けて面白かった本。川本先生はやっぱりすごい
「白村江の戦いは、漢民族による世界秩序が、五胡北魏北朝隋唐という胡漢融合によって形成された世界秩序によって更新されたという、巨大な潮流を受けて出現した諸戦争の一局地戦である」という大局的な視点が凄すぎるし、この視点が欲しくて史料を読んでるんだよな…と原点に立ち返りました


九月

『中國歴代藝術 建築藝術編』(中國歴代藝術編輯委員会編、台灣大英百科股分有限公司 1995)
作画資料にする予定で買ったのに巨大かつ重いのでデスクに広げるのも一苦労
『東西文明の交流2 ペルシアと唐』(山田信夫編、平凡社 1971)
買ったんですけど読んでたら「『大唐西域記』には突厥の風俗に関する記述はないけど『慈恩伝』にはある」と出てきてすぐ『玄奘三蔵―大唐大慈恩寺三蔵法師伝』をポチってしまって読むの中座してます
読書あるある:読み途中で参考文献の方に飛んでしまい読書計画が狂う


十月

『戦略戦術兵器事典7 中国中世・近代編』(学習研究社 1994)
今年描いたこの絵に「胡禄(矢筒)の矢の束は鏃が上を向いてるのが正しい」とアドバイスをもらって今までずっと矢羽を上に描いてたのに?恥(はじ)…となってたんですが、この本によれば標準サイズの胡禄でも矢が30本収納できるらしいです。今まで胡禄に収納されてる矢多くて10本くらいしか描いたことないけど?恥(はじ)…
『玄奘三蔵 大唐大慈恩寺三蔵法師伝』(彦悰、慧立著、長沢和俊訳、‎光風社出版 1988)
李世民可愛すぎbook。李世民さん可愛いエピが載ってる野史に遭遇すると嬉しいけど、これは正直期待値越えてました
『西遊記』の李世民さん聖母可愛い〜とか言ってたけど、死後40年しないうちに成立してる仏教資料でそれを上回る聖母可愛さを放ってるって李世民さんってずっとこのルートにいるんだな
『慈恩伝』は垂拱四年(688)成立らしいんですが、則天武后が実権を握っていた時期でも仏教側が全然李世民さんを推してたことにけっこう驚きました。『慈恩伝』には褚遂良も登場するし、ちゃんと良く描かれてるのも興味深かった
玄奘と仲良い(おそらく本当に親しみは感じている)のに道先仏後政策を取り下げるよう再三言われてもそのうちね…で流すビジネスライクな李世民さんに笑いました。ビジネス用語「前向きに検討する」じゃん…(脈なし)
『漢とは何か』(岡田和一郎編、東方書店 2022)
前漢〜唐までを一区切りとして、漢王朝が後代の諸王朝でどのように意識・認識され規範化されていったのかを追う一冊
諸王朝によって、また一つの王朝でも政治状況によって“漢”との接続度合いに濃淡があったり、このへんとても勉強になりました
中国諸王朝が継ぎ足しの秘伝のタレのように“漢”を継承してるのを見ると、やはり一部の研究者による唐の「タブガチ(拓跋)政権」呼びは微妙だな…と思った次第です。会田先生も中公新書『南北朝時代』で「隋唐を『拓跋国家』と呼んで遊牧要素の連続性を過度に強調する向きは実態に則してない」と言ってるし…
岡田先生の章読んでたら突然〈太宗が崩御されると(服喪期間は)三十六日と遺詔を下されたが、群臣はこれを引き伸ばして、埋葬から喪服を脱ぐまでの期間はおよそ四ヶ月あった〉(『旧唐書』崔祐甫伝)と出てきてオイ!って声出ました。アイドルでマドンナな正妻(李世民)を失った唐王朝の寡夫群臣たち、四ヶ月も喪服姿で仕事を…
『儒教・仏教・道教 東アジアの思想空間』(菊地章太、講談社 2022)
儒仏道というバラバラの宗教が矛盾しつつも共存できている、東アジアの不思議な思想空間を「シンクレティズム(神仏習合の“習合”)」という概念をキーに読み解いていく本
第7章「スモモの下で世直しがはじまる―くりかえされる予言の力」がかなり面白くて、李淵が隋末に老子の子孫を名乗ったのは道教勢力を味方につけるためとか漢人の血筋だと粉飾するためとかではなく、「道教の救世主思想(天下が乱れると老子の生まれ変わりの救世主が現れて民を救ってくれるという思想)に乗っかるため」だったんだろうと納得しました
この本は時代ごとの儒仏道の展開とか細かい話はあんまりしないんですが、トピックを読むごとに儒教の教えから取りこぼされる人々にとって道教や仏教がよすがとなったり、逆に儒教が強すぎるあまり他宗教が儒教と調和しなければならなかった現実が肌感覚としてわかります。すごい本です。良書。


十一月

『人間の世界歴史10 中国史-そのしたたかな軌跡』(増井経夫、三省堂 1981)
増井先生が圧倒的知識量で中国の歴史と歴史書、都市と農村、皇帝専制、文人、科学者、異端者などさまざまなトピックについて縦横無尽に語る本
増井先生が李卓吾推しなので、関連なさそうな話題でも気づいたら李卓吾の話に繋がっていきます。全ての川が海に流れ込むように…
〈このような古代に対する視角は、古代という設定の当初から萌(きざ)していた。古代も中世も近代の引き立て役で、近代が偉大であるために中世も古代もそれから離脱しなければならない悪役の舞台であった。封建制は諸悪の根源であり、専制はもっとも残虐なものであった。中国で自由なのは皇帝ただ一人であった(…)それは事実であっても事実の全貌ではなく、(…)それでもなお時代に落差があったとすれば、それは文化面の問題であって、時代そのものの性格ではない。〉(p139)
これはちょっと心に留めておこうと思ったところ
『中国中世の服飾』(譚蝉雪著、麻麗娟訳、中国書店 2022)
買ったけど積んでます。パラ見したけど大当たりの予感しかしません
「大唐双龍伝」DVDBOX1
BOXの1巻だけ買いました。まだ未見なんですけどOPの曲が癖になる


十二月

『隋唐の仏教と国家』(礪波護、中央公論社 1999)
持ってなかったのでようやく買いました
「唐初の仏教・道教と国家」の章がやはり好きすぎる。今読んだら李世民より圧倒的に法琳に肩入れしました
「李世民の仏教政策・仏教保護は仏教崇拝の立場から行われたものではなく仏教を政治利用し王法の下に組み込もうとする働きである」という指摘は多くの研究者がしているし、李世民のそういったバランス感覚には政治的センスを感じるけど、そのバランス感覚による微細な舵取りが法琳に代表されるような「国家権力によって振り回される側の人間」を生み出しているというのは改めて留意しておきたいです


更新も少ないのに拍手いっぱい嬉しいです、ありがとうございます
今年初めてサイトに拍手つけたんですが拍手押してくださったりメッセージをくださった方々ありがとうございました
閲覧者さまの優しさに感謝です。来年もまた一年がんばります