December 28,2023 2023年に読んだ本

picrewの「인형 꼬옥 묘파 픽크루」で作ったたぬき房玄齢のぬいぐるみを抱くゴスロリ李世民さんの概念です
毎年サイトの日記に書いてる読書おさらい記事です 長めの感想はてがろぐに書いてます


一月
『隋唐帝国五代史』(岡崎文夫、平凡社 1995)
手元に置いておきたくて買ったんですが、記憶してる5倍くらい李世民さんが誉められてました
李世民さんを「高朗闊達な性格」と形容してるのほんとそれすぎてサイトの人物紹介に引用しようと思った
高朗闊達…気高く明朗で、器量が大きく伸び伸びとした性格…わかりすぎる…
『文物に現れた北朝隋唐の仏教』 (礪波護、法蔵館 2023)
予想の4倍厚かったですね。推し関連部分だけ読みました。法琳ふつうに可哀想
『儒教入門』(土田健次郎、東京大学出版会 2011)
何度目かの再読なんですが何度読んでも面白いです
儒教について「安定して取り出せる要素だけを記述した」と手堅くも、儒教の時間的・空間的な広がりと言説の幅の広さをしっかりと伝えてくれる本
『中国思想基本用語集』(湯浅邦弘編集、ミネルヴァ書房 2020)
中国の伝統文化、儒教、仏教、道教、民間信仰、近世思想etcに関する基礎的な文献や人物、語句を解説する本
時代順にトピックを立てて用語が分類してあり、用語集ながら中国思想史の流れも鳥瞰できます


二月
『東アジアの家族とセクシュアリティ 規範と逸脱』(小浜正子、板橋暁子編、京都大学学術出版会 2022)
京都大学学術出版会のジェンダー史本。下倉渉「敦煌書儀はかく語る―婚礼史上の“唐宋変革”」、佐々木愛「近世中国における生命発生論―母子間の継承関係と父系制」、板橋暁子「魏晋南北朝時代の「以妾爲妻」「以妻爲妾」について」どれも面白かったです
佐々木愛先生の気や父系制に関する論文全部面白いのでおすすめです


三月
『東アジアの王権と秩序―思想・宗教・儀礼を中心として』(伊東貴之編、汲古書院 2021)
調べ物で一部読んだんですが、収録されている中国史関連の論文たぶん全部面白いです
古勝隆一「隋朝における一切経書写の意義―「宝台経蔵」をめぐって」は、私的な信仰の側面から語られることの多い即位前の楊廣の仏教事業について、諸史料を整理して楊廣の政治的意図と巨視的な視点を見出して勉強になりました
『中国文化の統一性と多様性』(渡邉義浩編、汲古書院 2022)
これも調べ物してて読んだ本。柿沼陽平「中国古代禿頭攷」のおかげで鮮卑の頭髪事情がちょっと理解できました
『拾遺記』巻四に張儀と蘇秦がお互いの髪を散髪し合っていたという話が載っているらしく、仲良しの男男がお互いの髪の毛を手入れし合う光景は「ある」という知見を得ました
『中国歴代女性像展:楊貴妃から西太后まで』(古代オリエント博物館、旭通信社 1987)
楊貴妃から西太后までとタイトルにあるけど展示内容は戦国秦〜清朝までカバーしてます
瀬戸内寂聴さんのコラム本の方では中野美代子先生が武則天とその周辺女性についてガッツリ語ってて面白いです
『学研まんが世界の歴史6 激動の東アジアと唐の皇帝玄宗』(学研プラス 1992)
「ムロタニツネ象先生の描く李世民さんが可愛いっぽい」という理由で買ったんですが大当たり
三国志の後半から唐の滅亡までの政治史を簡潔に追いながら、合間合間に中国史上の有名なエピソードを小ネタに挟んでくれるので読みやすいうえにちゃんと面白い
李世民さんが軍才によって台頭しながら即位後は政治制度や律令格式を整えたり文才にも長けた文治の人であることもこの一冊でしっかりわかる
しかもムロタニツネ象先生が描いてるので当然のごとく台詞回しが可愛く、「やっちまえー!」「唐の大ピンチ!」とか言う 可愛すぎ
今読むと古い部分やステレオタイプな表現も多々あるので、そのあたりに過敏な方は避けたほうが無難かもしれません


四月
『中国の水の物語 神話と歴史』(蜂屋邦夫、法蔵館 2022)
洪水や治水を軸に中国神話を読む第一章が好き
あと第三章で「長江流域は雨量も多く水路は入り組み土壌は肥沃で温暖な気候で農耕に適した土地だが、湿潤な風土と吸血虫などによって病気が多発し人口増加を妨げた」「著者が80〜90年代に南方に行ったときも吸血虫の発生で今ある川をまるごと埋め立て新しい川を掘る情景と遭遇した」とか書いてて長江流域…ってなった
『アジア人物史 第2巻 世界宗教圏の誕生と割拠する東アジア』(姜尚中監修、集英社 2023)
隋末唐初の人物に関しては全部読みました
感想が難しいけど、隋末唐初の人物について知りたいときに初手に手に取って欲しい本ではないかもしれない…や『長安の春秋』N1
『学研まんが NEW世界の歴史3 アジアの古代文明と東アジア世界の成立』(近藤二郎監修、河伯りょうイラスト、学研プラス 2016)
久しぶりに読んだらこんなに創作要素強かったんだと思いました。好みと合わなくて残念
楊廣x李世民要素がちょっとあるのでそこだけ味わいます
『大唐帝国の女性たち』(高世瑜著、小林一美、任明訳、岩波書店 1999)
あまりに名著。あらゆる史料を渉猟して唐代の様々な階層の女性の実態に迫っているけれど、特に詩や小説に描き出された女性の生々しい姿を見逃さないのがめちゃくちゃ凄い
回顧と展望で小説史料から女性像を窺う試みをしてると評されていた理由がわかりました
もちろん詠み手・書き手が男性の場合そこに女性を客体化する目線が含まれていることもちゃんと考慮されてるし、文士・詩人の女性へのまなざしについてもそれが差別を含んでいることに(当たり前だけど)言及されている
当時の女性の生き様を通じて大唐帝国における男性社会の苛烈さ、残酷さ、赤裸々さ、「一面では女性を差別し、一面では恐れ、一面では同情する」という矛盾、宋代に入り封建道徳が厳重化する前の一瞬の輝きも描き出していて、唐王朝のオタクとして改めてちゃんと読んでよかったです

 


五月
『ユーラシアの風 新羅へ』(山川出版社 2009)
東アジアの潮流の中でユーラシア西方の香りを伝える新羅文化をテーマにした同名展覧会のカタログ
古新羅(統一以前新羅)は中国由来の外来物がほぼ出土しないのに、西アジア・中央アジア由来の文物は大量に出土しているらしい
ミホミュの棺床屏風が載ってるのが嬉しいし、全体的に写真の見せ方がいいです
『死ぬまでに見たい中国の世界遺産』(羅哲文、李敏編著、河野肇訳、エクスナレッジ 2012)
編著が『中国歴代の皇帝陵』の羅哲文先生じゃん!となって読んだ
2011年までに登録済みの中国の世界文化遺産・世界自然遺産をすべて網羅した(してるはず)写真集
とにかく写真が綺麗だし、どの世界遺産も複数ページ割いてしっかり見せてくれる。紫禁城なんかは20pくらい割いてる
中国の長城、宮城(紫禁城)、皇帝陵、石窟、庭園、自然風景などをバランスよく見られる写真集としてかなりいいのではと思います
『天変地異はどう語られてきたか:中国・日本・朝鮮・東南アジア』(串田 久治編、東方書店 2020)
儒教、仏教、イスラーム、キリスト教といったさまざまな思想や宗教が、どのように「天変地異」を語ったのかを紐解く本
時代や地域に関しても古代中国から近代朝鮮、琉球王国、インドネシアとアジア各地が幅広く取り扱われているので、相対的に中国における儒教的価値観の特異性が理解できます
ちょっと射程が広すぎるけど、最終章に執筆者9名による座談会が収録されていて大まかに本書の内容がまとまってて良かったです
『中国の服飾史入門 古代から近現代まで』(劉永華著、古田真一、栗城延江監修・翻訳、マール社 2023)
図版多くて歓喜だったんですが原書の『中国服饰通史墙书』から相当端折られてるな…と思ってしまう(最低の顧客)(原書買え)
劉永華先生の服飾再現イラストは最高です


六月
『儒教の知恵 矛盾の中に生きる』(串田久治、中央公論新社 2003)
『王朝滅亡の予言歌 古代中国の童謡』でお馴染み串田先生の儒教本
『天変地異はどう語られてきたか』を読んだ際に串田先生の書き物好きかもなとなったので読んだけど、やっぱり好きだった
タイトル通り「儒教に学ぶ」系の主旨で書かれた本ですが、儒教の思想や慣習などの基礎的な部分をちゃんと抑えている良書
そのうえで副題の通り中国史(儒教社会)に生きた人々の理念と現実のギャップや矛盾に着目し、そこをしっかりめに掘り下げているのがいい
そして原則を設け理想をうたいつつも、ときには積極的に例外を認め現実に対応する儒教の現実主義的な面も描き出してます
儒教入門書としても、中国史の人々の価値観が知りたい人にもおすすめできそう
『道教の世界(講談社選書メチエ)』(菊地章太、講談社 2012)
かなり好き
道教について、老子、宗教、自然観、教団、経典、神統譜、山岳信仰、仙人、女神といったテーマを軸に縦横無尽に語る入門向けの本
同先生の『儒教・仏教・道教 東アジアの思想空間』(講談社、2022)を読んだときも思ったけど、菊地先生は「信仰」に対する解像度が高いというか、中国史に生き道教を信仰した人々をちゃんと「人間」として見ているので、必然中国史世界の解像度も高い
なのでこの本も道教を通じて「道教を信仰した人々の生きる中国世界」まで見えてくる。いい本でした
『中国の伝統色 故宮の至宝から読み解く色彩の美』(郭浩・李健明原著、黒田幸宏訳、鷲野正明監修、翔泳社 2023)
故宮の文化財の色彩を色見本とし、古典に登場する伝統色を体系化し二十四節気と七十二候に基づいて紹介する本
色の解説にもさまざまな古典が引用されていて、これがかなり壮観。おすすめです


七月
『道教思想10講』(神塚淑子、岩波書店 2020)
全体像の捉えにくい」道教を、そのはじまりと展開、「道」の思想、生命観、宇宙観、神格と救済思想、儒教・仏教との関係などの10のトピックごとにかっっっちり解説したハイレベルな概説書
概説書として優れているけど入門書として読みやすいとは思わなっかたです(固有名詞が多いし)
でも情報量が多くて読んでて面白かった。道教に関する本で一冊手元に置いておくならこれだと思います
『紫禁城 FORBIDDEN CITY』(紫禁城出版社 1991)
ヤフオクで親の顔より見る紫禁城写真集。出品情報を複数参照したところ、写真集ではなく30年くらい前に現地で売られていたパンフレットらしいです
写真に見応えがあるし日本語解説もあるので、紫禁城に興味のある人が買っても損はないと思います
漱芳斎の多宝閣の写真とか日本語で読める紫禁城の本でもはじめて見た気がする


八月
『歴史をひらく: 女性史・ジェンダー史からみる東アジア世界』(宋連玉・秋山洋子・伊集院葉子・井上和枝・金子幸子・早川紀代編集、御茶の水書房 2015)
2013年開催日中韓女性史国際シンポジウム「女性史・ジェンダー史からみる東アジアの歴史像」の諸報告と、2014年開催総合女性史学会大会「女性史・ジェンダー史からみる東アジアの歴史像―女性史の新たな可能性を求めて」における諸報告を再構成し1冊にまとめた本
姜英卿著、井上和枝訳「新羅における善徳女王の即位背景と統治性格」を目当てて読んだんですが、「コメント」で李成市先生が善徳女王の父・真平王の時代から対倭外交がはじまったこと、また日本の「女帝の時代」(590〜770)に新羅との外交が盛んであったこと、善徳・真徳女王の親唐政策、唐から見た善徳女王の存在感などから倭→新羅→唐へ「女帝即位の構想がミーム化」し伝播したのではないかと指摘していて、私としては姜英卿先生の報告よりこっちの方が興味深かったです
あと李世民さんが善徳女王に香りのない牡丹の花の絵を送った話信憑性ないと思ってたけど、姜英卿先生の報告で善徳女王が即位後に芬皇寺(芳しい皇帝の寺)という名前の寺院を立ててたと知って笑いました 喧嘩じゃん
李世民さんが善徳女王に香りのない牡丹の花の絵を送った話は史料によって意味合いに相違があるので、機会があればサイトにまとめたいです
『唐人軼事彙編』(周勛初主編、嚴杰・武秀成等編、上海古籍出版社 2015)
正史や墓誌以外の唐、五代、両宋の雑史、伝記、故事、小説から、唐〜五代十国(宋以前)の主要人物約2700人の逸事を人物別に集録した逸話集
隋末唐初の人物の知らない逸話がいっぱい読めるかも!と思って買ったんですが、そもそも隋末唐初の人物がよく出る史料は唐宋史料筆記叢刊でだいたい買い揃えてるから9割出典込みで知ってる話でした
『資治通鑑』『冊府元亀』からの引用はないものの『資治通鑑考異』からはあって、これはかなり嬉しかったです
というか早く資治通鑑と通鑑考異買った方がいい


九月、十月、十一月
『仙境往来―神界と聖地(シリーズ道教の世界1)』(田中文雄、春秋社 2002)
道教の全体像を内容や周辺文化から解説する「道教の世界」シリーズのうち、「道教の神界と宇宙観」(コスモロジー)について読み解く巻
神仙世界、聖地、名山、天、地獄、肉体の宇宙、儀礼空間についての情報を網羅していて、中国古来の世界観を学べます
「『抱朴子』と聖地」の章が好きです
『道法変遷―歴史と教理(シリーズ道教の世界2)』(山田利明、春秋社 2002)
「道教の世界」シリーズのうち「教理と歴史」(ヒストリー)について読み解く巻で、シリーズの総括的な本
道教に関する概説書にも良書が沢山あるけれど、入門書としては今まで読んだなかでもこれが一番くらいにいいです
道教教団登場以前の神仙思想や老子、荘子と道教の関係、後漢における道教教団の出現と、現代に至るまでの各王朝における教法、信仰、教団の変遷が概観できます
後漢〜唐までは道教教団を主体としてた道教が、北宋以降は民間信仰が主になっていく様子が特に興味深く、中村裕一先生が『中国古代の年中行事』に「隋唐の年中行事は道教の神々関連のイベントが少ないのが特徴。宋元明清は道教関連の行事がめちゃある。だから隋唐と北宋以降は時代の雰囲気が異なる」ということを書いていたのはこれか!と思いました
『中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史』(松下憲一、講談社 2023)
拓跋部の起こりから東西分裂を中心に隋唐まで、正史以外の史料や近年の研究も駆使しながらその歴史と中華世界に与えた影響を追う一冊
複雑な時代について中華vs遊牧(鮮卑拓跋)という二項対立を排除し、俯瞰的にかつダイナミックに歴史の流れを追います。
胡漢融合の実相を丁寧にかつフラットに書いているから凄い。神です
『アジア・中東の装飾と文様』(海野弘、パイインターナショナル 2023)
「アジア・中東」って非ヨーロッパ圏を雑に括ってない?と思ったんですが、「シルクロードを通じて互いに影響しあったユーラシア大陸の王朝や地域」は全部射程です
というかシルクロードの終着地であるローマとかヨーロッパまでもちょっと含んでる
第一章ではシルクロードを通じて共鳴しあう文様たちが、第二章では西アジア、中央アジア、インド、中国各地の装飾文様の歴史が学べ、文様史の「縦の歴史」と「横の歴史」を抑えている良書です
写真も建築、服飾、装飾品、絵画などバランスよく掲載しているしブックデザインも洗練されてます
アジア文様史本で突如登場した良書って感じ。おすすめです


2023年に読んだ本ベスト3は
『大唐帝国の女性たち』(高世瑜著、小林一美、任明訳、岩波書店 1999)
『中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史』(松下憲一、講談社 2023)
『道法変遷―歴史と教理(シリーズ道教の世界2)』(山田利明、春秋社 2002)
です
今年は『図解 中国の伝統建築 寺院・仏塔・宮殿・民居・庭園・橋』『中国の伝統色 故宮の至宝から読み解く色彩の美』『中国の服飾史入門 古代から近現代まで』『アジア・中東の装飾と文様』と中国服飾、建築、美術関連の名著も多数出てていい年でしたね
読み途中・買ったけどじっくり読めてない・感想を保留している本たちは以下↓

 

『隋―「流星王朝」の光芒』(平田陽一郎、中央公論新社 2023)
『唐―東ユーラシアの大帝国』(森部豊、中央公論新社 2023)
『古代遊牧帝国』(護雅夫、中央公論社 1976)
『北京大学版 中国の文明 第5巻 世界帝国としての文明上』(潮出版社 2015)
前に読んだことあるけど再読中。李世民さんの山東系非貴族の抜擢と人材登用範囲の拡大についててしっかり論じてあって嬉c
『中国の城郭都市―殷周から明清まで』(愛宕元、筑摩書房 2023)
『唐両京城坊攷―長安と洛陽』(徐松著、愛宕元訳、東洋文庫 1994)
『図解 中国の伝統建築 寺院・仏塔・宮殿・民居・庭園・橋』(李乾朗著、恩田重・田村広子訳、マール社 2023)
『東アジア民族史』全2巻(井上秀雄訳註、東洋文庫 1974)
『唐太宗全集校注』(吴云、冀宇校注、天津古籍出版社 2004)
『大唐創業起居注箋證(附壺關録)(中國史學基本典籍叢刊)』(温大雅、韓昱撰、仇鹿鳴箋證、中華書局 2023)