December 25,2020 2020年に読んだ本

Picrewのベストカップルメーカーで作った尉遅敬徳x李世民

師走になったので今年読んだ本のまとめです


一月
『日中宮城の比較研究』(吉田歓、汲古書院 2013)
『日中古代都城と中世都市平泉』(吉田歓、汲古書院 2014)
『キーワードで読む中国古典3 聖と狂:聖人・真人・狂者』(内山直樹・土屋昌明・廖肇亨著、志野好伸編集、法政大学出版局 2016)
『中国の伝統美学』(李沢厚著、興膳宏・松家裕子・中純子訳、平凡社 1995)

吉田歓先生の本は松本保宣「唐初の対仗・仗下奏事―討論集会か、密談か―」で太極宮太極殿が常朝の場であるとする吉氏の説が批判されていたので確認のために読みました。唐長安城の理解のためには日中宮城比較研究にまで手を伸ばさないといけないのか…と年始早々壁にぶつかりました。でもこの2冊を読んで史料に出てくる「入閣」の場所がわかったので良かったです


二月
『通俗二十一史 第九巻 通俗唐太宗軍鑑 通俗唐玄宗軍談』(早稲田大学編輯部編、早稲田大学出版部 1912)
『道教の経典を読む』(増尾伸一郎・丸山宏編、大修館書店 2001)
『道教の神々』(窪徳忠、講談社 1996)
『道教事典』(野口鉄郎・福井文雅・坂出祥伸・山田利明編、平河出版社 1994)
『中国古代兵器図冊』(劉旭、北京国家図書館出版社 1999)

通俗唐太宗軍鑑は史実をベースにした歴史物語。『説唐』や『隋唐演義』のようなはちゃめちゃ要素が盛り込まれた李世民が主役の資治通鑑みたいなテイストでした。比較的史実通りに話が進むので、『説唐』『隋唐演義』よりこれを読んだ方が史実の雰囲気が掴みやすいかもしれないです
『道教の経典を読む』は「門神」の出典である『三教源流搜神大全』について知りたくて読んだ本。あじあブックスの本らしく読みやすいです
『道教の神々』はコンパクトながら読み応えがある本
『中国古代兵器図冊』は弓、槍、槊など武器の王朝別の形状がカタログ形式で掲載してあります。図像は宋代以降のものが多めですが参考になりました


三月
『中国正史の基礎的研究』(早稲田大学文学部東洋史研究室編、早稲田大学出版部 1984)
『シリーズ中国の歴史2 江南の発展:南宋まで』(丸橋充拓、岩波書店 2020)
『シリーズ中国の歴史3 草原の制覇:大モンゴルまで』(古松崇志、岩波書店 2020)
『隋唐の仏教と国家』(礪波護、中央公論社 1999)

『中国正史の基礎的研究』は今年読んだ本のベストの一つ。福井重雅「『旧唐書』-その祖本の研究序説-」は、『旧唐書』だけではなく唐代の実録・国史の編纂事業について考察されていてとても勉強になりました
岩波新書シリーズ中国の歴史は面白いけど、個人的にはちょっと引っかかる点も。『江南の発展:南宋まで』は隋煬帝の皇后蕭氏について「孫の楊政道を伴って、隋の宗室から東突厥の可汗に嫁いだ義成公主を頼った」「蕭氏と義成公主が手を組み、遊牧可汗の後援によって楊政道を押し立てる「復隋運動」の態勢が成った」としていますが、蕭皇后が東突厥に渡ったのは『北史』后妃伝下にあるように、義成公主が竇建徳の軍に使者を遣わして洺州まで蕭皇后を迎え、建徳が引き渡しを承認したから。彼女は主体的に東突厥を頼ったのではなく、半ば人質として義成公主に政治的意図を以て保護されたと見るべきではないかと思います
あと近年の隋唐史研究における北魏〜隋唐政権を地続きに「拓跋国家」とする見方は、北魏滅亡後の西魏〜隋諸王朝興亡のタイムスパンや支配者層の変質に無頓着かつ「拓跋国家」の概念に拘泥しすぎているきらいがありますが、『草原の制覇:大モンゴルまで』はそれがかなり顕著化しているように感じました
そもそもタブガチ(タブガチュ)が中国を指しているのは確実として、原語が拓跋って確定してたのか、私はよくわかってないんですがそのへんどうなんだろう。研究者の間でも解釈が割れていたと思ったんですが…


四月
『敦煌の民族と東西交流 敦煌歴史文化絵巻』(柴剣虹・栄新江主編、栄新江著、高田時雄監訳、西村陽子訳、東方書店 2012)
『ヴィジュアル版 シルクロード歴史大百科』(ジョーディー・トール著、岡本千晶訳、原書房 2019)
『アニメで読む世界史2』(藤川隆男・後藤敦史編、山川出版社 2015)
『中国甲冑』(凱風著、上海古籍出版社 2006)

『敦煌の民族と東西交流』は再読。敦煌の歴史を彩る多彩な民族と文化を図版たっぷりで解説していて面白いです
『アニメで読む世界史2』所収、齊藤茂雄「ムーラン 敵側からみた歴史世界」は、副題の通り「ムーラン」では敵役として野蛮で残虐に描かれる遊牧民を主軸とし、彼らの文化や中国へ侵攻する理由、中華との衝突・融合・交流の歴史を説明し、アニメに横たわる偏見を丁寧に読み解いています。時代物の創作物を書いたり歴史創作する上でも学びの多い一冊だと思うし、どの時代に限らず歴史創作されてる創作者さんはあとがきを読んで欲しいです
『中国甲冑』は豊富な図像で読みやすいですが、図像の出典がほぼ記載されていないのが引っかかりました。中国書籍、図像の出典記さないがち


五月
『朝鮮の絹とシルクロード』(曺喜勝、金洪圭訳、雄山閣 2007)
『敦煌の飲食文化―敦煌歴史文化絵巻』(高啓安著、山本孝子訳、東方書店 2013)
『訳注荊楚歳時記』(中村裕一、汲古書院 2019)

『朝鮮の絹とシルクロードは』北アジアと東アジアの密接な政治関係を理解することで6〜7世紀ユーラシアの解像度があがる一冊
『敦煌の飲食文化―敦煌歴史文化絵巻』は、食品から什器、宴会のスタイルまで、敦煌莫高窟から発見された文書や石窟壁画を参考に、敦煌の飲食文化を読み解く本。手元に置いておきたいこれ


六月
『長安』(佐藤武敏、講談社 2004)
『中国古典文学大系第24巻 六朝・唐・宋小説選』(前野直彬編訳、平凡社 1968)
『律令国家と隋唐文明』(大津透、岩波書店 2020)

『長安』は1997年までの漢唐の国都長安のデータを網羅する一冊。佐藤武敏先生の本って面白いのばっかりですね
『中国古典文学大系第24巻』は唐倹と靴下の話でしんみりしたけどフェミニズム的にこの良妻譚は手放しで賞賛できね〜となりました
『律令国家と隋唐文明』は日本でも偶像化される推しについて学べて良かったです。やっぱアイドルじゃん


七月
『坐の文明論:人はどのようにすわってきたか』(矢田部英正、晶文社 2018)
『西遊記:妖怪たちのカーニヴァル』(武田雅哉、慶應義塾大学出版会 2019)

『坐の文明論』のタイトルの「坐(ざ)」は「すわる人間の形」を表し、「座」は人がすわる空間を意味するそうです。「すわる」という行為や空間、座具などを含め〈人とすわること〉 についてトータルに考察する一冊。中国の座具と発展についても多数ページを割いているので、中国の坐文化について知りたい人にもおすすめ
『西遊記:妖怪たちのカーニヴァル』は李世民の名前が出てくるところだけ読みましたが、推しがただ不憫で面白かったです。冥界にはかぼちゃが存在しないらしい


八月
『民族の世界史4 中央ユーラシアの世界』(山口瑞鳳・林俊雄・森安達也・護雅夫等著、山川出版社 1990)
『民族の世界史5 漢民族と中国社会』(戴國輝・末成道男・竹村卓・岡田英弘・斯波義信・鈴木秀夫・橋本萬太郎著、山川出版社 1983)
『東アジアにおける皇帝権力と国際秩序:金子修一先生古稀記念論文集』(金子修一先生古稀記念論文集編集委員会編、金子修一先生古稀記念論文集編集委員会 2020)
『中国帝王図』(田中芳樹・狩野あざみ・井上祐美子・赤坂好美著、皇なつき画、講談社 1998)

民族の世界史シリーズは決して新しくはないけど面白いです。改めて確認したら執筆陣豪華だな
『中国帝王図』は皇なつき先生画の李世民さんが龍に乗ってて可愛い


九月
『中国の歴史書 中国史学史』(増井経夫、刀水書房 1984)
『NHKスペシャル 新シルクロード5―カシュガル 千年の路地に詩が流れる・西安 永遠の都』(NHK「新シルクロード」プロジェクト編著 、日本放送出版協会 2005)
『テュルクの歴史:古代から近現代まで』(カーター・V・フィンドリー著、佐々木紳訳、明石書店 2017)
『図説纏足の歴史』(高洪興著、鈴木博訳、原書房 2009)
『中国の版画:唐代から清代まで』(小林宏光、東信堂 1995)

『中国の歴史書』は今年読んで良かった本のベストのふたつめ。正史、資治通鑑などの歴史書について、編纂者、編纂状況、編纂意図などを解題。各史料の特徴が概観できます。二十二史箚記の論評を多く引いているので箚記を読む前にこちらを読んでもいいと思う
『図説纏足の歴史』は纏足を知る上でおすすめの一冊。纏足文化の発展だけでなく、史料に見える「纏足を施された女性の実態」を数多く取り上げることで、纏足がいかに非人道的な文化であったかを淡々と浮き彫りにしているのがすごいです
特に纏足解放運動(天足運動)の難航を追う最終章が興味深かく、女性の解放を許そうとしない社会の抑圧は現代に生きる人間にとっても身近なものであり、いろいろと考えさせされるテーマでもあります。中国女性史に関心がある人にもおすすめ


十月
『儒教とは何か』(加地伸行、中央公論新社 2015)
『儒教入門』(土田健次郎、東京大学出版会 2011)
『中国人物伝第3巻 大王朝の興亡:隋・唐-宋・元』(井波律子、岩波書店 2014)

『儒教とは何か』は間違いなく面白い本ではあるけれど、儒教について学びたい人が初手でこれを読んだらかぶれるのではないかと思います。『儒教入門』から読もう(提案)
『儒教入門』は公式の内容紹介いわく、「その成り立ちから、中心概念である天、「修己治人」、「経学」等を俯瞰し、儒教の現代的意義までを詳述する。儒教の構造を平易に解説した画期的なテキスト」。確かに儒教に関する百科事典という本でわかりやすいです。平易に解説といいつつ、孔子に関して浅野裕一先生の研究を批判してるところなどは筆致が熱く、読ませる文章だと思います
『中国人物伝第3巻』も再読。煬帝と李世民について知りたいならこれより『長安の春秋』を読んだ方がいいです
ただ「北朝の皇帝は酒色で身を持ち崩した者が多いが、南朝皇帝の乱脈ぶりも相当のもの。独孤皇后の潔癖ぶりは、南北朝を覆った男たちの享楽思考への拒否反応ではないか。皮肉にもその病的な潔癖が、南北朝の放蕩天子の総決算ともいうべき煬帝を表舞台に押し出した」とする南北朝隋の概観は熱!となりました
井波先生の李世民評は手放しで褒めてたり冷徹と形容したりと肯首しかねる部分も多いですが、「皇帝の独裁に歯止めをかける諫官の設置から、内政、外征の整備・強化、文化事業に至るまで、なさざることなき」という表現は的確だと思います。世民の凄さは異常なほどのバイタリティにあると思っている


十一月
『人口の中国史:先史時代から一九世紀まで』(上田信、岩波書店 2020)
『近世画譜と中国絵画:十八世紀の日中美術交流発展史』(小林宏光、上智大学出版 2018)
『中国東アジア外交交流史の研究』(夫馬進編、京都大学学術出版会 2007)
『クローズアップ中国五千年 第4巻 隋・唐 分裂の時代から大帝国建設へ 西暦280~907年』(陳舜臣・立間祥介・平山郁夫・守屋洋編、世界文化社 1996)
『人物 中国五千年⑤ 世界帝国の盛衰[隋・唐・五代十国]』(奥平卓責任編集、PHP研究所 2001)

『人口の中国史』は隋唐に関する記述は多くはないものの、隋〜唐の戸数の増減を理解することで隋末の戦乱が中国に残した傷跡を理解できて参考になりました。南朝の戸口調査制度を継承した隋は戸口調査の徹底により人民を直接に把握。その高度な戸籍制度が大運河の開削や高句麗への数度にわたる遠征といった大事業を可能にした。それが煬帝の暴政と隋の破滅につながり、河北・河南・山東に150年ほどの歳月が過ぎても癒えぬ大きな傷を残す
『中国東アジア外交交流史の研究』は辻正博「麹氏高昌国と中国王朝—朝貢・羈縻・冊封・征服」を再読。歴代の中華王朝と高昌国との「変転常ならぬ」敵対・朝貢・外交関係を俯瞰。李世民は北魏〜隋まで絶域とされた高昌国の土地を直接統治し、膨大なリソースを割きながらも中華の領域を拡張する。バイタリティよ…
『クローズアップ中国五千年 第4巻』も再読。図像多めで入門書としてちょうどいい本。李勣の人物紹介、「太宗は李勣が組織のために働くというよりは、個人の恩を中心とする人間ではないかと心配し、次代の高宗に恩を感じさせようと一度わざと左遷した。高宗の即位後、李勣を高い地位に付けさせてやれるように配慮したのである。」解釈一致です


十二月
『東アジア世界における日本古代史講座5 隋唐帝国の出現と日本』(井上光貞編、門脇禎等執筆、學生社 1981)
『中国名将列伝―起死回生の一策』(来村多加史、学研プラス 2008)

『唐帝国の出現と日本』の西嶋定生先生の序説面白い!6〜7世紀の東アジアにおいて、隋唐王朝・朝鮮三国・倭国(日本)の政治的関係性の変動を多視的に捉えながら、倭国が中国相手にどういった外交を志向したかをクリアに描いています。中国側の史料でも日本側の史料でも妙にぼかされてる中国と日本の外交(上の軋轢)についての鋭い指摘もあります
ただ6〜7世紀の中国・朝鮮三国・日本の政治的関係性の変動を多視的に捉えながら、中国の東アジアへの政治対応にも影響を与えた突厥や薛延陀などの北アジアの動向にまったく触れてないのが「東アジア史から日本を捉え直す」限界なのかもしれないと思いました
『中国名将列伝』は歴史小説じゃん!と思ったけど〈総大将の立場にありながら斥候に出た李世民の行動はあまりにも無謀である。世民はときおり理解に苦しむ大胆な行動に出て、側近たちはそのつど気をもまされたが、それが彼の魅力でもあり、カリスマ性を高める理由でもあった。〉の一節が最高だったので許しました


積読になってる本
『「貞観政要」の政治学』(布目潮渢、岩波書店 1997)
『講談社選書メチエ733 シルクロード世界史』(森安孝夫、 講談社 2020)
『岩波講座 世界歴史5 東アジア世界の形成II』(荒松雄他編、岩波書店 1979)
『岩波講座 世界歴史6 東アジア世界の形成III 内陸アジア形成』(荒松雄他編、岩波書店 1979)
『イメージの歴史』(若桑みどり、放送大学教育振興会 2000)