April 30,2024 春の道教本祭り

だいぶ前にpicrewの나나곰쿠키2で作った李世民さん

去年からちまちま読んでいた道教の入門書についての自分用メモ
色々読んだけど、道教の入門書って面白いのがいっぱいある。正直どれから読んでもいいと思う
こうなると逆に儒教の初心者向けの本が少ないのが気になってくる…
土田健次郎『儒教入門』と串田久治『儒教の知恵 矛盾の中に生きる』くらいしか私からはお勧めできません
加地伸行『儒教とは何か』は最初に読むとかぶれそうだから勧めません


菊地章太『儒教・仏教・道教 東アジアの思想空間』(講談社 2022)
「道教そのものに強い興味がある訳ではないが、“中国の歴史に横たわる道教という存在”には興味がある」という人にハマるのはたぶんこれ
東アジアにおいては、儒仏道というバラバラの宗教が矛盾しつつも共存できている。この不思議な思想空間を「シンクレティズム(神仏習合の“習合”)」という概念をキーに読み解いていく本
タイトル通り道教・儒教・仏教が中国史のなかでどう共存してきたかについての本なので、いきなり道教オンリー本に取り掛かるよりハードル低めでおすすめ
時代ごとの儒仏道の展開といった細かい話はしないものの、トピックを読むごとに儒教の教えから取りこぼされる人々にとって道教や仏教がよすがとなったり、逆に儒教が強すぎるあまり他宗教が儒教(の特に孝)と調和しなければならなかった現実が肌感覚としてわかります
儒教の崇高な教えの実践より道教の底辺道士に憎い人間を呪ってもらう方が重要だし、仏教の因果は神仏でも変えられないとか言われてもお坊さんをもてなしたら先祖への孝養ということで先祖の罪をチャラにしてほしい…みたいな宗教ごちゃまぜの庶民感情はある意味で真理だし、この視点を掘り下げた菊地先生はすごい

窪徳忠『道教の神々』(講談社 1996)
中国の道教信仰の概説と、道教の神々についてその由来や逸話を紹介する本
読みやすくて面白いし道教に対するハードルをグッと下げてくれる
道教へのとっかかりとして、わりと入門書に最適だと思う

菊地章太『道教の世界(講談社選書メチエ)』(2012 講談社)
道教について、老子、宗教、自然観、教団、経典、神統譜、山岳信仰、仙人、女神といったテーマを軸に縦横無尽に語る本
めちゃくちゃ面白いし読みやすいし講談社選書メチエだから手に入りやすいしもうこれでいいじゃん
菊地先生は「信仰」に対する解像度が高く、中国史に生き道教を信仰した人々をちゃんと「人間」として見ているので、必然中国史世界の解像度も高い
この本も道教を通じて「道教を信仰した人々の生きる中国世界」まで見えてくる
そういった視点をもたらしてくれる意味でもとてもいい本だと思います

『道教思想10講』(神塚淑子、岩波書店 2020)
「全体像の捉えにくい」道教を、そのはじまりと展開、「道」の思想、神格と救済思想、儒教・仏教との関係などの重要なトピックごとにかっっっちり解説したハイレベルな概説書
内容は手堅く、これを読みこなせれば道教の抑えておきたい基礎知識は身につくと思う。ただ初心者向けじゃないし入門書でもない
岩波新書編集部の公式twitterも「総合的入門書」と宣伝してたけど少なくとも入門書ではない
入門書何冊か読んだ人にとってもハイレベルな方だと思う(岩波の10講シリーズってみんなそうなのか?)
ただ情報量が抜群にすごいので、手元には置いておきたい

坂出祥伸『道教とはなにか』(筑摩書房 2017)
まだ読んでません
道教の入門書として書かれた本だし坂出先生の本だから内容も堅実だと思うけど、試し読みを読んだ限り「初手にこれを読んだら坂出道教観にかぶれるのでは…」という不安が募り、まだ読んでません

松本浩一『中国人の宗教・道教とは何か』(PHP研究所 2006)
道教の入門書としてお勧めされてるのをよく見る。それも大抵大絶賛されている
PHP研究所から出ている中国史関連の本でこれだけまともそうかつ評価の高い本が潜んでいることあるんだという驚きもあります
今度読んでみます

春秋社「道教の世界」シリーズ
このシリーズとにかくめちゃくちゃ面白い
教入門のためのシリーズだけど、どれも単純に読み物として面白いのが強い
読みやすさも各巻のテーマもいいし著者ごとの味がよく出ている
ただこのシリーズを1巻から順番に読み込むのはちょっとハードル高いと思う。3番手くらいに読むのをお勧めしたい

田中文雄『仙境往来―神界と聖地』(春秋社 2002)
道教の全体像を内容や周辺文化から解説する「道教の世界」シリーズのうち、「道教の神界と宇宙観」(コスモロジー)について読み解く巻
神仙世界、聖地、名山、天、地獄、肉体の宇宙、儀礼空間についての情報を網羅していて、中国古来の世界観を学べます
面白いけど道教入門書としてこの巻から入るのは結構きついので、初手に読むなら別の本をおすすめします
山田利明『道法変遷―歴史と教理』(春秋社 2002)
「道教の世界」シリーズのうち「教理と歴史」(ヒストリー)について読み解く巻で、シリーズの総括的な本
このシリーズから入るなら『仙境往来―神界と聖地』じゃなくてこっちを先に読んでもいいと思う
道教教団登場以前の神仙思想や老子、荘子と道教の関係、後漢における道教教団の出現と、現代に至るまでの各王朝における教法、信仰、教団の変遷が概観でき、道教周辺の思想や信仰、文化についても紹介していて気が利いてます
菊地章太『老子神化―道教の哲学』(春秋社 2002)
最初期の道教文献を読み解きながら、老子が人物像粉飾のフェーズを超えて宇宙の根元たる「道」そのものと同一視され、更に老子の哲学と神格化した老子が民衆(五斗米道等の反乱勢力を含む)を支える「信仰」となる過程を辿る
『老子』の語る思想がいつ、どんな人々によって受け止められ、道教の信仰がどのようにして生まれたのか。社会に抵抗した人々は『老子』に何を求め、どのような時代にどのような事情から『老子』を自分たちの原点としたのか。『老子』の思想と道教の信仰は一つか否か…という冒頭の問いの答えが畳み掛けるように紐解かれる終盤の流れがすごい
菊地先生って文章力もあるけど一冊の本の組み立て方、構成が抜群に巧いんだな…と思わされた一冊
浅野春二『飛翔天界―道士の技法』(春秋社 2002)
台湾でのフィールドワークにもとづき、主に道教の死者救済儀礼についてそれを行う道士と儀礼の歴史、意味、効果などを詳細に解説した一冊
主に取り上げられている儀礼は丸二日がかりで行われた犬を供養する(犬を供養する理由も面白いので割愛)「無上十廻抜度大斎」で、儀礼のタイムスケジュールや構成、供物の内容、関わる道士の数や役割、身につける装束の種類までとにかく詳細にレポしている
読みやすさはまったくないです
土屋昌明『神仙幻想―道教的生活』(春秋社 2002)
著者の関心の高い範囲に射程がグッと絞られていて、それが大成功している本。時代範囲も最盛期唐王朝に絞られているので内容の濃度も濃い
長安の都市計画と道観の把握に始まり、宮城を取り巻く武則天、太平公主、李隆基ら権力の中枢と道教の関係を掘り下げ、郊外に住む公主の道教生活と山々を見渡し、最後は地方を旅する李白に行き着く
最盛期唐王朝を、中心から外へ空間的に移動しながら道教を見つめる
シリーズ最終巻に相応しいめちゃくちゃいい本でした

今のところはこれくらいです
今後他に読んだらここに追記していきます